三限目のチャイムが鳴る〜KREVA『嘘と煩悩』レビュー

KREVAが次に登ろうとしている山は「リズムの向こう側」であり、それはおそらく次回または次々回のアルバムでマスターピースとして評価されるだろう。というのが自分の読みです。

久しぶりにブログを書くモチベーションが出てきたので、書きたいものから順に書いていきます。というわけで、まずはKREVAの『嘘と煩悩』を取り上げたいと思います。

えー、以前めちゃくちゃ気合を入れて書いた記事がありました。「KREVAを1万字で語るぞ! でも1万字じゃ足らない!」なんて感じで書きまして、けっこうな内容だったんですがまあまあのページビューがあり、まだ活字中毒者はいるのかもな、なんて思った次第です。

【レビュー,批評】11,000字のKREVA論〜ラップの<ノイズ>と<啓蒙>【けっきょく、J-POP】

それで今回はそのレビュー後にはじめて発売されたアルバムです。タイトルは『嘘と煩悩』。嘘の「800」と煩悩の「108」が足されると「908=クレバ」になるんだ、というなかなかウィットの効いたタイトルです。

これは本当にKREVAというラッパーの宿命なのかもしれませんが、今作も(ネットで見るかぎりは)ほとんど批評が見つからない状況でして、熱狂的なリスナーはtwitterで「クレさん最高」と言い、音楽評論家は「KREVAはメジャーフィールドで活躍しつつ、かつヒップホップ的な評価も得ている、稀有なラッパーである」みたいな。プロップスこそあれど、ほとんど黙殺に近いよね、と感じています。

というわけで今回も勝手な使命感を持ちつつレビューします。語るべきところはいくつだってあると思いますが、基本的にはトラックと、そのリズムが中心です。

実験作となるアルバム

まずアルバム全体として、本作は「これぞKREVAの真骨頂。現時点での彼のすべてがここに凝縮している」みたいな、そういったものではないと思いました。言い換えれば、はじめてKREVAを聴こうとする人にはオススメしません。

もちろん「神の領域」における高速ラップは凄味を増しており、あたらしい「基準」を打ち立てたという意味では名盤かもしれません。しかしアルバム全体として見たときに、どうしてもまとまりが感じられないことも事実でした。

つまり立ち位置的には『OASYS』に近く、いわば「実験作」だという判断です。

「嘘と煩悩」、「想い出の向こう側」の何がスゴいのか

では、その「実験」とはなにか。私は「リズム」だと考えます。

基本的にヒップホップは16ビートの音楽です。16ビートかつハネが強め/薄めのトラックがあり、ラッパーは自分の身体的な気持ち良さを感じるものでラップをします。

しかし本作では、これを崩そうとするトラックがありました。

1つ目は「嘘と煩悩」で、これは3連符のトラックです。この曲は「ためしに3連符でやってみた」という次元を超えて、このスタイルもKREVAのひとつとして認められるであろうぐらいの、素晴らしいラップ(ラップ的歌唱)をやっています。

またかなり細かいですが、2小節ごとに入ってくる2拍3連のパーカッション(右側で鳴っている)が効いていて、1拍3連と2拍3連が絡み合う瞬間はかなり気持ちいいです。

そして「実験」のもう1つが「想い出の向こう側」です。この曲が本作のハイライトである、と言い切ってしまいましょう(笑)。

この曲については、メイン部分のトラックはシンプルです。しかしイントロ部分そして間奏で入ってくる3拍子のトラックと、それぞれ(イントロ、メイン、アウトロ)で歌われる3種類のフックはメインストリームの楽曲にしては「攻め込んで」います。

詳しい解説は次の記事で書くつもりですが、ザックリといえばKREVAは「ma cherie」につづくクロスリズムのラップ/トラックを作ろうとしています。自分の読みだと、次作でもこの試みはゼッタイに行われるはずです。

スクエアかつ複雑なリズム

ちなみに「リズム重視」の兆候は、アルバムには取り入れなかった傑作「under the moon」から見て取れます。というか個人的に「under the moon」は、KREVAの作品を一覧したときに重要な転換点だと思うぐらいです。

一聴しただけではビートの構造を掴めないトラックですが(3拍目にスネアが入っている、ダブステップにようなものだよ。と言ってしまうことは簡単です)、その中でKREVAのラップはいつも通りトラックに噛み合っていました。

ここで強調しておきたいのは、これまでのKREVAのリズムに対するチャレンジがすべて「スクエア」なものであることです。つまりビートを適当にズラしていくのではなく、一度細かく分解してから再構築していくような、緻密でロジカルなトラック/ラップである、と。

次作がマスターピースとなる

以前の記事で私はこう書きました。

というわけで、10,000字ほどの長文になってしまったが、言いたいことは140字以内でも十分に言えるほど単純だ。それは序文でも書いたが、「KREVAは、何よりも「ラップの面白さや難しさ」を日本の一般的なリスナーに理解させたかった」ということだ。

今後どのようなことを仕掛けてくるのかはまだ不明だが、「under the moon」で見せたようにビートを崩し始めたところからすると、KREVAの<啓蒙>はラップからトラックへと変化していく可能性は否めない。想像できないが、いわゆる「ディラ系」のモタついた<ノイズ>まみれのビートに乗るKREVAを聴くこともできるかもしれない。

もちろん、これは期待のひとつだ。兎にも角にも、KREVAが<ノイズ>をさらに増やす瞬間。そのときがKREVAの「三限目」であることは間違いなく、そしてそれは近いうちに訪れるだろう。
【レビュー,批評】11,000字のKREVA論〜ラップの<ノイズ>と<啓蒙>【けっきょく、J-POP】

KREVAが次に登ろうとしている山は「リズムの向こう側」であり、それはおそらく次回または次々回のアルバムでマスターピースとして評価されるだろう。というのが自分の読みです。

というわけで次回は「想い出の向こう側」の解説をやりたいと思います! ご興味あればもうしばらくお付き合いください。