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2017年11月9日に執筆されたこの記事は、以前書いたKREVA論を引き継いでいる。
現在は『AFTERMIXTAPE』が最新のアルバムであるが、いまだにKREVAはイノベーターだ。きっと次作もスゴいものになると思っている。

久しぶりにブログを書くモチベーションが出てきたので、書きたいものから順に書いていきます。というわけで、まずはKREVAの『嘘と煩悩』を取り上げたいと思います。

えー、以前めちゃくちゃ気合を入れて書いた記事がありました。

**「KREVAを1万字で語るぞ! でも1万字じゃ足らない!」**なんて感じで書きまして、けっこうな内容だったんですがまあまあのページビューがあり、まだ活字中毒者はいるのかもな、なんて思った次第です。

【レビュー,批評】11,000字のKREVA論〜ラップの<ノイズ>と<啓蒙>【けっきょく、J-POP】

それで今回はそのレビュー後にはじめて発売されたアルバムです。タイトルは『嘘と煩悩』。嘘の「800」と煩悩の「108」が足されると「908=クレバ」になるんだ、というなかなかウィットの効いたタイトルです。

これは本当にKREVAというラッパーの宿命なのかもしれませんが、今作も(ネットで見るかぎりは)ほとんど批評が見つからない状況でして、熱狂的なリスナーはtwitterで「クレさん最高」と言い、音楽評論家は「KREVAはメジャーフィールドで活躍しつつ、かつヒップホップ的な評価も得ている、稀有なラッパーである」みたいな。プロップスこそあれど、ほとんど黙殺に近いよね、と感じています。

というわけで今回も勝手な使命感を持ちつつレビューします。語るべきところはいくつだってあると思いますが、基本的にはトラックと、そのリズムが中心です。

実験作となるアルバム

まずアルバム全体として、本作は「これぞKREVAの真骨頂。現時点での彼のすべてがここに凝縮している」みたいな、そういったものではないと思いました。言い換えれば、はじめてKREVAを聴こうとする人にはオススメしません。

もちろん「神の領域」における高速ラップは凄味を増しており、あたらしい「基準」を打ち立てたという意味では名盤かもしれません。しかしアルバム全体として見たときに、どうしてもまとまりが感じられないことも事実でした。

つまり立ち位置的には『OASYS』に近く、いわば「実験作」だという判断です。

「嘘と煩悩」、「想い出の向こう側」の何がスゴいのか

では、その「実験」とはなにか。私は「リズム」だと考えます。

基本的にヒップホップは16ビートの音楽です。16ビートかつハネが強め/薄めのトラックがあり、ラッパーは自分の身体的な気持ち良さを感じるものでラップをします。

しかし本作では、これを崩そうとするトラックがありました。 1つ目は 「嘘と煩悩」で、これは3連符のトラックです。この曲は「ためしに3連符でやってみた」という次元を超えて、このスタイルもKREVAのひとつとして認められるであろうぐらいの、素晴らしいラップ(ラップ的歌唱)をやっています。

またかなり細かいですが、2小節ごとに入ってくる2拍3連のパーカッション(右側で鳴っている)が効いていて、1拍3連と2拍3連が絡み合う瞬間はかなり気持ちいいです。

そして「実験」のもう1つが「想い出の向こう側」です。 この曲が本作のハイライトである 、と言い切ってしまいましょう(笑)。

この曲については、メイン部分のトラックはシンプルです。しかしイントロ部分そして間奏で入ってくる3拍子のトラックと、それぞれ(イントロ、メイン、アウトロ)で歌われる3種類のフックはメインストリームの楽曲にしては「攻め込んで」います。

詳しい解説は次の記事で書くつもりですが、ザックリといえばKREVAは「ma cherie」につづくクロスリズムのラップ/トラックを作ろうとしています。自分の読みだと、次作でもこの試みはゼッタイに行われるはずです。

スクエアかつ複雑なリズム

ちなみに「リズム重視」の兆候は、アルバムには取り入れなかった傑作「under the moon」から見て取れます。というか個人的に「under the moon」は、KREVAの作品を一覧したときに重要な転換点だと思うぐらいです。

一聴しただけではビートの構造を掴めないトラックですが(3拍目にスネアが入っている、ダブステップにようなものだよ。と言ってしまうことは簡単です)、その中でKREVAのラップはいつも通りトラックに噛み合っていました。

ここで強調しておきたいのは、 これまでのKREVAのリズムに対するチャレンジがすべて「スクエア」なものであることです。つまりビートを適当にズラしていくのではなく、一度細かく分解してから再構築していくような、緻密でロジカルなトラック/ラップである、と。

次作がマスターピースとなる

以前の記事で私はこう書きました。

というわけで、10,000字ほどの長文になってしまったが、言いたいことは140字以内でも十分に言えるほど単純だ。それは序文でも書いたが、「KREVAは、何よりも「ラップの面白さや難しさ」を日本の一般的なリスナーに理解させたかった」ということだ。
今後どのようなことを仕掛けてくるのかはまだ不明だが、「under the moon」で見せたようにビートを崩し始めたところからすると、KREVAの<啓蒙>はラップからトラックへと変化していく可能性は否めない。想像できないが、いわゆる「ディラ系」のモタついた<ノイズ>まみれのビートに乗るKREVAを聴くこともできるかもしれない。
もちろん、これは期待のひとつだ。兎にも角にも、KREVAが<ノイズ>をさらに増やす瞬間。そのときがKREVAの「三限目」であることは間違いなく、そしてそれは近いうちに訪れるだろう。
【レビュー,批評】11,000字のKREVA論〜ラップの<ノイズ>と<啓蒙>【けっきょく、J-POP】

KREVAが次に登ろうとしている山は「リズムの向こう側」であり、それはおそらく次回または次々回のアルバムでマスターピースとして評価されるだろう。というのが自分の読みです。

というわけで次回は「想い出の向こう側」の解説をやりたいと思います! ご興味あればもうしばらくお付き合いください。

というわけで「想い出の向こう側」の解説を書くつもりのまま3年が経過した。個人ブログなんてそんなものだ。エントリ内でも触れられているようにクロスリズムになっていることを説明しようと思ったのだが、多分もうやらない。「聴けば分かりますよ」という、個人ブログだからこそできる結論で終わりにしよう。


Kobori Akira

IT業界の社会人。最近はプロレスと音楽の話題が多め。
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