鶴見俊輔『文章心得帖』同様、自分の作文スキルを向上させたいと思って読んだ一冊。
感想
本書は、井上ひさしが受講生に「自分にしか書けないことを、だれにでもわかる文書で書く」ためのコツを教えるものだ。口語で書かれているので、とても読みやすい。
この本を読んで、 井上ひさしの考える文書のポリシーはミニマリズム ではないか、と考えた。必要十分な言葉で書かれた小さな文書を、緻密に積み上げて大きな流れを生み出す。著者の小説を読んだことがないので恥ずかしいが、この講演でそのように感じた。
話のテーマが大きいので、一読しただけでその内容をインストールはできないだろう。本書の受講生と同様、実際にこの教えを頭に入れながら文書を書き続けることで、やっと血となる話である。
その中でも、個人的に大変参考になったことが2つある。相手が理解しやすいように書くための教えだ。
段落で論理を伝える。「接着剤」を使わない。
一つ目は、 段落の扱い方 。井上ひさしは、段落を「(考え方の)ひとまとまり」と捉えて、ひとまとまりが終わったら改行するように教えている。
しかし、このひとまとまりが、私の想像よりとても小さかった。
井上ひさし曰く、段落をつくる心は自分の好きな改行をする作家から学ぶほかない。たしかに、自分の好きな作家は、ひとつの段落が長いことが多かったかもしれない(アカデミズムの本とは大半がそういうもので、それは基礎体力のようなものだった)。
この点は、ブログを書くときにも意識するようになった。とくにブログは、書籍以上に段落をつくる書き方をすることが多い。長文志向な自分にとっては、この段落を上手く使うことで最後まで読まれる文章を書けるようにしたい。
とはいえ、段落をそう簡単には変えずにズラズラと長い文章を書くのも、生理的には嫌いではない(笑)。そういうことで、今のところは、論理的な面と美的な面の2方向から検討するようにしている。
もうひとつは、できるかぎり 言葉を削ぎ落とす ことだ。一人称を使わない教えも参考になったが、 「接着剤」を使わない 、というのは面白い考え方だった。
「接着剤」とは、接続後や接続助詞のことで、これらは「 理屈をつれてくることば 」である。でも、それがなぜいけないのか。
それは、接着剤が理屈を連れてくるところにある。もし接着剤に合った文章が練られていないと、言葉にせっつかれて無理矢理に理屈をつくることになってしまう。そうしてできた文章は簡潔ではないのだ。
接着剤をまったく使わないことは無理だし、適切ではないだろう。しかし「理屈をこねる」ことは避けろ、と井上ひさしは伝えているのだ。
こうしたことを意識して文書を書き始めると、ときに「あれ、こんなに短い文章/段落で大丈夫?」と思うことが増えた。
他人に伝えるために必要な言葉は、考えるより短くていいのかもしれない。 [amazonjs asin=“4101168296” locale=“JP”title=“井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室 (新潮文庫)”]## 目次_※ 本文の重要な部分を多く見出しに書いているので、先頭部分だけ抜粋。_ 1. 一時間目1. 作文の秘訣を一言でいえば、自分にしか書けないことを、だれにでもわかる文章で書くということだけなんですね。
- 二時間目1. 一時間半で日本語というものをざっと見るという大冒険、うまくいったら拍手ご喝采です。
- 三時間目1. 意識をなるべく研ぎ澄まして。観念的に、じゃなくて具体的に。理屈ではなくて、具体的に。
- 四時間目1. 奇蹟が起こっています。