【J-POP DJの方法論】選曲における《繋がり》の生み出し方
DJ、とくにJ-POP専門のDJにとって、「選曲」は最も重要な要素のひとつです。(※1)
もし、あなたが初めてDJブースに立ち、「何か流せ」と言われたらどうするでしょう。
あなたはとりあえず「自分の好きな曲を、好きな順にかける」ことにしました。これでお客が盛り上がれば、フロアもあなたも皆が幸せです。
実際、これで盛り上がる現場もたくさんありますが、2,3度DJをした方であれば、この方法が通用しないフロアがあることもご存知でしょう。
では、どのように選曲を行えばよいのでしょうか。
というわけで、この記事では、J-POPにおける「選曲」の方法について、ちょっと真面目に考えてみました。 さきに結論を出すと、
「選曲」をするためには<繋がり>を生み出すことが大事だと考えています。
つまり、ある曲とある曲の間に関連性があれば選曲として機能する、というのが要点です。
以下では、<繋がり>を生み出すための3種類の方法を考えてみようと思います。
(※1)主にPCDJの普及によるテクニカル面の重要性が小さく見積もられたことは、これをさらに推し進めることになりました。言い換えれば、機材のおかげでDJingが出来る現在、自身をDJと定義するための材料が選曲だけの人もいるはずです。
本題に入る前に
とはいえ、「お前、とうとうここの話をしてしまうのか。バッシングに耐える覚悟はあるのだな?」って感じもしています(笑)。
というのは、「選曲はDJのセンスに直結している」、つまり、選曲を褒める/否定することは全人格を褒める/否定することに繋がる、という考え方があるからです。この前提があると、講釈垂れる奴が出るたびに「センス無いお前が言ってんじゃねーよ」っていうツッコミが入ります。
自分にセンスがあるかないかは実際にミックスを聴いてもらうとして(※2)、上のようなツッコミを受け入れていると、この記事はここで「投稿」ボタンを押すことになります(笑)。
というわけで、常識のある方には余計なお世話をとらせて申し訳ないですが、以下の内容はそういった暗黙知的なものをできる限り言葉に直したものであり、DJスキルを理論的に統合している訳ではないことをご承知ください。
とはいえ! 充分に面白いとは思います!(笑) (※2)mixcloudなどで聴けます。「おしゃべりオムライス」の12分頃からあたりは、PCDJの面白さがあると思いますのでご興味あればぜひ。
「おしゃべりオムライス」最終回 DJMIX by コボリアキラ
by Akira Kobori
on Mixcloud
ミックスして違和感のないものを選ぶ
選曲の成功を決めるのは<繋がり>を生み出せているかどうか、というのが全体的な結論です。それでは、具体的にどのように行えばよいでしょうか。
まず浮かぶのは、実際に ミックスされるお互いの曲に繋がりを持たせる ことです。この方法は、DJの一番基本的な考え方だと思います。
リズムの一致しているものを選ぶ
DJはお客に「ダンス」させることが第一の目的であり、まずはリズムを崩さないことが特に重要です。
これは選曲でも同じです。いま流れている曲のドラムパターンやハネ感に似ている曲を選んでいけばDJっぽくなるというか、少なくとも現在のiTunesのランダムプレイには勝てます(笑)。
ドラムパターンは色々とありますが、とくに キックとスネアに注意します。
キックやスネアの位置があまりに異なると、ミックス中の違和感が強くなるからです。また、キックが並ぶ「4つ打ち」はワイルドカード的というか、結構いろんなものに合わせられると思います<span class=“note”>(※3)。
「ハネ感」に関していえば、J-POPではヨレたビートのドラムを使うことは少ないので、それほど気にしなくても上手くいくかもしれません。16ビートのいわゆる「裏の裏」の位置を基準に考えれば完璧でしょう。。
ちなみに、同じジャンルの曲がハマりやすいのは、こういったリズムが一致することが多いからですね。
音色の一致しているものを選ぶ
リズムがまあまあ一致している、あるいはあまり一致していないとすれば、次に揃えてみたいのは「音色」です。つまり、ピアノやギターなどですね。J-POPにおいてザックリ言い換えれば、
「バンドか打ち込みか?」 ってことです。
音色の違いは、場合によってはリズムよりも強い違和感を生み出すことがあります。たとえば、きゃりーぱみゅぱみゅからギターロックに繋げようとすると、どうしても「音色的な有り得なさ」みたいなのが勝ってしまいます。うまく使えば面白くなりますが、やはり「ミックスしやすい」とは言えません。
個人的には、 とくにエレキギターに注意しています。
大体アンバランスなミックスになるときは、ギターが邪魔をしています(楽曲のミックスダウンもギターがキモになることが多いですよね)。ロックDJならギター同士をぶつけて無理矢理推し進める手もありますが、自分はなるべくミックスする曲の片方はギターレスな箇所を使うようにしています。
リズム、音色のズレを無視した繋ぎ方(カットイン、ブレイク)
最後に、上記2つとは異なるパターンを紹介したいと思います。 「カットイン」 と呼ばれるテクニックです。A曲からB曲に一瞬でチェンジ!
ってやつですね。 すでに紹介した2つは、2曲が同時にミックスされることを想定していました。なのでリズムや音色にズレがあると違和感を生み出してしまいます。
その点でカットインは心配はありません。普通にミックスするよりは大胆なアプローチが可能になるはずです。
私はPCDJを使っているのでカットインというよりも「ブレイク(切れ目)」がある曲のミックスで、カットイン的な効果を出すことがあります。
たとえば、川本真琴「1/2」の2番目のサビ後はこのパターンです。 サビで盛り上がって盛り上がって、一気に音数が減る!
ので、このあとには静かなイントロから始まる曲をかけたり、ボーカルから始まる曲を使ったりすることができます<span class=“note”>(※4)。
<span class=“note”>(※3)4つ打ちの魔力というか、どんなものも均等なキックの上ではひとつになる感じがしています。一方で、4つ打ちから別のドラムパターンに移行するのが不自然かどうかは、人それぞれでしょうか。自分はちょっと違和感あるので、8ビートに戻すときはディスコ調の曲を挟んで4つ打ち感を弱めることが多いかも。
<span class=“note”>(※4)自分は「1/2」のあとにセカオワの「Dragon Night」をかけたりしたことがあります。ダダスベった#8943;⋯かな。
文脈が浮かんでくるものを選ぶ
というわけで、お互いの曲のサウンド面に注目したミックスを紹介させてもらいました。とはいえ、他のDJのプレイを聴くと、どうもそれだけでは無い気がします。
それは、もしかすると お互いの曲のバックグラウンド、つまり「文脈」のようなもので繋がれてはいないでしょうか。 たとえばこんなパターンです。
グループ化してみる
ジャンルや曲調が異なっていたとしても、そこに何らかの繋がりが見つられる場合、それらはひとつのグループの中にある、と考えられます。
たとえば、最も単純なものとしては「同じアーティストが歌っている」などです。他にも、同じレーベル・レコード会社から発売されているものもありますよね。
他にも、同じドラマやアニメ、映画で使われている曲であったり、同じテーマ(たとえばクリスマスとか)で作られている曲をまとめてみる方法もあります。
マニアックなものとしては、「逮捕歴がある」とか「みんな離婚している」とか(笑)、知っている人は「あっ⋯⋯、もしかして!」と気付くようなグループ化もできますね。
J-POPイベントの中には、こういったグループ化=「縛り」を課したイベントもあります。ミックスの中で、そのような縛りを一部出してみるのも面白いかもしれません。
歴史をたどる
グループ化が横軸的なまとめ方だとすれば、縦軸的なまとめ方、つまり 時間軸による繋がり も重要でしょうか。
例としては、J-POPではあまり見られませんが、たとえばヒップホップをかけた次にオリジナルソース(原曲)をかける、などです。
J-POPの選曲に応用するならば、今かけてる アーティストや曲の影響元(リスペクト)を辿ってみる、というのはアリでしょう。私の場合は、久保田利伸とかにたどり着きます(笑)。
また、同年代が集まるイベントであれば、個人史を反映した選曲も考えてみてもいいかもしれません。自分の聴いていた曲は、同じ頃にお客さんが聴いていたかもしれないからです。
たとえば、高校生だった頃の曲からはじめてみて、少しずつ昔に遡っていき、小学校の高学年頃まで振り返ったことがあります。退行しながら盛り上がっていく、って感じですよね。
フロアの定番曲から考える
縦横の軸から文脈を探ってみましたが、それならば「いまここ」にも注目してみます。つまり、あなたがDJブースから見渡している、そのフロアです。
フロアには独自の空気があります。その空気を読むことができれば、さらなる多種多様な選曲ができるはずです。
具体的には、フロアでよくかかるアーティストや定番曲など。これが掴めれば、その曲を始点として、あとは上述の選曲の中から適切なものを試すことができます。
他のDJを参考することも、この部類に入るでしょうか。フロアにいるDJは等しくヒントを与えてくれます。他のDJのプレイ中にフロアで踊る人のDJingが好きなのも、踊りながらフロアの雰囲気を察知しているからかもしれません。
知名度の高低差に注意して選ぶ
というわけで、まとめてしまえば「楽曲内の情報(=サウンド)と楽曲外の情報(=文脈)を考えるのが選曲だ!」となります。こう聞くと当たり前ですかね(笑)。でも、楽しんでもらえていれば幸いです。
最後に、後者の文脈による繋がりにおいて、とくにJ-POPで起こりがちな、気をつけたいことを書いておきます。
「バカ曲(超有名曲)」から「マイナー曲」への繋ぎには注意する
それはたとえば、 鈴木あみの「Be Together」をかけた後は注意しようぜ!
という話です(笑)。どんな話だよ、ってツッコミが入りそうですが#8943;⋯。
つまり、めちゃくちゃ有名な曲(個人的に、愛をこめて「バカ曲」と呼んでいます)の次曲は重要になることが多い、ということです。
というのは、「バカ曲」をかけると、フロアが一気に沸き立つことがあります。DJにとってはこの上ない瞬間ではありますが、ハイリターンにはハイリスクがつきもので(スベるのもリスクの一つ)、このあとの盛り上がりをどうコントロールすればいいか、意外に迷うんですよね。
もっとも危険な選択は、マイナー曲を次に流すことです。選曲がバチッとハマれば最高なのですが、諸刃の剣のようなもので、私は現場でやることは少ないです。
かといって、同じようにバカ曲をかけ続けるのも実は落とし穴があります。第一に永遠にピークタイムを続けることは不可能ですし、第二に続いたとすればそれはもはやピークではありません。
あまり煮詰められていないので、「バカ曲を流すタイミングに注意しよう」という話でお茶を濁してしまうのですが、仮に流す場合はその後の流れもちょっとイメージしておいてから流すといいかな、と思っています。
おわりに
以上が、繋がりを生み出す選曲について、自分が考えたことの暫定版です。
繰り返しになりますが、今回紹介した3つのパターンはあくまで個人的経験をまとめたもので、すべての選曲技術を統合したものではありません。もしこれが全てであれば、このアルゴリズムを実装したiTunesにDJさせればいい話です(実際そういう流れもあるんですが・笑)。
選曲は、おそらく、入念な準備と一瞬の閃きです。その「入念な準備」ないしは「一瞬の閃き」のためのヘルパーとして、この記事が参考になれば幸いです。
素敵な選曲ライフを!