KEITA「FRAGMENTS LIVE」の感想と、すこしのKEITA論
1月23日(土)に東京Zepp DiverCityで行われた「KEITA FRAGMENTS LIVE」に行ってきました。
昨年12月に発売された2ndミニアルバム **『FRAGMENTS』**のリリースツアー。w-inds.のライブは5年前から見ている自分ですが、KEITAのソロライブを観るのははじめてでした。
「ちょっとツアーの記録でも書いとくか」と思って書き始めたんですが、結果としてはKEITAのこれまでをちょっと振り返るかたちになってます。
「KEITA」に対する印象、前作『SIDE BY SIDE』について
w-inds.に関するコメントは、もうほんとうに腐るほど書いているのでそちらに回しますが(笑)、KEITAのソロ活動については、w-inds.とはすこし違った見方や期待をしていました。
それはザックリ言うと、 w-inds.以外のファンがつくれるか?
「アイドルなのに〜」という上の句なしに音楽性やスタイルのみで評価され、メインストリームをかき回すような存在になれば最高だな、と考えていました。
この点でデビュー作 『SIDE BY SIDE』 はとても充実したアルバムです。日本のR&Bシーンに一石を投じたと思いますし、「Hey Love」や「Nice & Slow」はマジで名曲です。自分の好きな「遅いけど、速い曲よりも踊れるバラッド」ですね。(ヤバい、卒倒する。ライブに行ったら俺が座ってる可能性もあったんだ。行ってブチ壊しにしなくてよかった・笑)
「つまり、KEITAも三浦大知とか安室奈美恵のようなポジションに行ってほしい 。ってことだよね?」
そう、そういうことです。でもその考えが今回のライブでちょっと揺らぎました。最後に書きますね。
『FRAGMENTS』は、自身のポテンシャルをさらに引き出そうとした実験作
で、今作『FRAGMENTS』です。
本格的な曲作りを開始したのは、2年半前に出した前作『SIDE BY
SIDE』以降だそうだが、「こんなに達成感があるのは初めて」と語るほど、彼のクリエイター魂に火を付けた意欲作。
http://musicshelf.jp/pickup/id18304/ (以下、記載していないものは同じリンク先より。)
というように、今作は『SIDE BY SIDE』にくらべると「日本のR&Bを変えてやるぞ!」みたいな鼻息の荒さはあまり感じず、「曲つくりたい!」というピュアな熱意でつくられたアルバム だと感じました。
作詞をするアイドルは珍しくありませんし、作曲をするアイドルもたまにいます。しかし編曲やミキシングまで手掛けるアイドルはほとんど聞きません。
「編曲はプロと協力してるだろ」とつぶやいたら本人から否定のコメントが来たぐらいガチです (その説はすみませんでした!)。
というわけで作曲家としてはデビュー作となる『FRAGMENTS』ですが、なかでも **「Brand-New Day」**はKEITAのポテンシャルの高さとちょっとした天才性のようなものを感じます。
Aメロのバックトラックを聴いてほしいんですが、「ウン・カンカン、カン・カン」と木の叩いたような音が鳴っていますよね。
これはボサノヴァなどでよく聴かれるリズムパターンで、これがサラッと入ってくる感じにシビれてます。 **「どんだけ細かいとこ褒めるんだよ(笑)」**って話ですけど、ほかに誰も書かないと思うので。
正直、『FRAGMENTS』はマスターピース(一生聴き続けられる、そのアーティストの最高傑作)ではない、というのが自分の判断です。しかし「クリエイター」としてのKEITAのまぎれもない第一歩であり、その一歩が想像を上回るもので今後の活動に期待を持たせるものだったことは言えると思います。
——どうぞどうぞ(笑)。……って、これからリリースされる作品を完成形じゃないというのはすごく失礼な話なんだけどね(笑)。
いや、でも、そういうところはありますから。こんなことを言うのはおこがましいですけど、俺はまだまだこんなもんじゃない!と思って作ってましたから。
「FRAGMENTS=破片」とはよく言ったもので、このアルバムにはKEITAの可能性が散らばっています。
「KEITA FRAGMENTS LIVE」の感想
やっとライブの感想です(笑)。「おせーよ!」という読者の方もいらっしゃると思うんですが、すみません、これがこのブログの持ち味だと思ってください(笑)。
ライブについても、アルバムと同様の感想です。 今回のライブはとにかく「やりたいことをやった」に尽きると思います。
ドラムソロを叩きながらの登場。間奏ではボコーダーを操り、ギターやピアノ、ベースも弾く。楽曲制作とおなじく、とにかく 「俺がやるんだ!」感がハンパ無かったです。
ただ、このパフォーマンスが成功かどうか、という点では私はちょっと懐疑的です。その楽器で統一されたパフォーマンスができればいいんですが、今回は「つまみ食い」感も出てしまっていて、「ふつうに歌うだけでも十分だよ!」と思うシーンも。
ちなみに、これを突き詰めていくとあるアーティストにたどり着きます。 KREVA です。 (これが「ボコーダー」です!笑)
上の動画じゃわかりづらいんですが、KREVAは以前「本当にひとりでライブを全部やる」という偉業を武道館でやりまして、これが大成功しました。この匂いを今回のKEITAには感じたんですよね。
『FRAGMENTS』の楽曲は生演奏になっているのでKREVAとまったく同じようにやるのは無理なのですが、もしかするとKEITAがMPC(曲をつくる機械。これ1台で1曲作れます)を持ち込んでライブする可能性はあると思っています。というかそうなったらもっと応援するしかない(笑)。
「脱w-inds.」なわけじゃなかった
そんな訳で、演奏された楽曲自体には文句なくも(アンコールで「Hey Love」をやったのがアガった。「Nice & Slow」もやったし。基本的にKEITAと趣味が同じなんでしょうね)、「FRAGMENTS=破片」とはよく言ったもので、全体的な統一性のようなものは感じられず、そこがちょっと残念でした。
ただこれは、1stと2ndの方向性がまったく違うせいでもあります。それほど問題ではありません。 それ以上に、むしろビックリしたのが、 ライブ中にw-inds.の話がめちゃくちゃ出たり、実際にメンバーが登場してた ことでした。
これは決して批判とかではなくて、なんとなくな想像として「このライブはw-inds.とは別なんだ。俺はソロシンガーとして今日この舞台にいるんだ。 俺はw-inds.ではないんだ」みたいな気持ちだろうな、と思っていたんです。しかし見事にくつがえった。
KEITAにとって、このソロプロジェクトは「w-inds.であることの危機感」から生まれたものではまったくなく、本当にただただ「曲をつくりたい」とか「もっと色んなことにチャレンジしてみたい」とか、オドロくほどまっすぐな感情から始まったものなんだろうな、と感じた次第です。
愛のみ。
で、そんなことを考えていると、アンコールでSKY-HI先輩が登場しました。彼らの初共演作「Slide’n Step」のエクスクルーシブを見ながら、この二人の違いについて考えざるを得ませんでした。
彼らの違いは、「自分がアイドルであること」に対する意識です。SKY-HIはかなり自覚的なタイプで、
SKY-HI:そう。いわゆるヒップホップヘッズが、俺がAAAのメンバーというだけでSKY-HIの曲を聴かないという偏見があるとします。逆に
「AAAの日高のファンです、でもSKY-HIはラッパーなんでしょ?
じゃあ聴かない」という偏見もある。さらに「日高ってすごいよね。AAAなのにがんばっていて」という偏見もある。ツイッターでプチ炎上することも多いんですよ。今日も「出自上、人に曲を作ってもらってるお人形さんアイドルだと思われることを払拭したい」とツイートしたら、プチ炎上して(苦笑)。俺はアイドルに対してネガティブな思いなんて全然なくて。でも、これだけのアルバムを作って歌詞も曲も自分で書いてないと思われる状況はやっぱり心外なんですよね。そうすると「じゃあAAAはお人形さんアイドルなんですか?」ってリプライがくる。
http://realsound.jp/2016/02/post-6168_3.html
とあるように「自分はアイドルで(も)ある」ということを頭に入れたうえで、そういった固定観念のすべてを取っ払うような活動をしています。
しかしKEITAはこの点で掴みどころがなく、そもそも 「アイドルであることを意識していない」 感じがしたんですよね。
繰り返しますが『FRAGMENTS』はKEITAのピュアな熱意でつくられたアルバムです。そういう意味では、めっちゃ乱暴ですけど、私がアルバムを作ってるのと基本構造は同じです(あ、ラップをやっておりまして⋯⋯。「自分がブサイクだから彼女の目をつぶしてしまおう」みたいな暗いラップをしています・笑)。クオリティが6億倍ぐらい違うだけで(笑)、そうじて「趣味」の作品とも言えるわけです。 「趣味なんて言い方ヒドい!
彼は本気なのよ!」と怒られると思うんですが、もちろん一概に批判している訳じゃありません。「音楽シーンに一発喰らわせるんだ」でつくるよりも「なんかいい感じだよね〜」でつくったほうが面白いことが多々あります。
ただとにかく、今回のミニアルバムもライブも「気負い」のようなものが感じられなかった。 本当にやりたいことをやっているように見えたんですよね。そういう意味で、KEITAはもしかすると「アイドル発」のアーティストとしてははじめて、
「自身がアイドルであることを強く否定することも、反発心のさらなる裏返りでアイドル性を強調しすぎることもないアーティスト。というか、アーティストであることも意識してない、ただの音楽好き」
になるかもしれないと思いました(アイドル史を知らないので「はじめて」は言い過ぎかも。ちなみに、『1998年の宇多田ヒカル』という新書で「アイドル」と「アーティスト」の定義が語られています)。その裏には、いまのw-inds.の音楽性がKEITAの向いてる方向と一致していることが強くはたらいているんでしょう。
——それほど曲作りに心を奪われてると(笑)。
もともとは歌をずっと続けていけるようにトラック作りを始めたんですけど、今はトラックをつくること自体が楽しいですもん(笑)。家に帰ったらとりあえず机の前に座ってビートをつくってみたりして、本当、楽しいですね。
——じゃあ、今、音楽人生の新しいスタートラインに立てている感覚があるんじゃないですか?
ありますね。僕、30歳になるのがすごく嫌だったんです。このままで30になっても若い人に負けるというか、どんどん追い抜かれるだけだ、みたいな気持ちがあったんですよ。だけど、今回自分でつくってみて、ようやく気持ちよく30歳を迎えられるなって。新たな自分へのスタートラインに立てたと思うし、若い人に追い抜かれるもんか!という気持ちにもなりましたし。なにより新たな音楽の楽しみ方を見つけましたから。そこがすごく大きいですね。
アイドルであることも、アーティストであることも意識していない。そこにあるのは音楽に対する愛のみ。
KEITAが「音楽への愛」だけでどんな曲をこれから作っていくのか。次作を楽しみに待ちたいと思います。